- 温度計を試用してみた
- 健常日本人の口の中の平均温度は36.96℃
- ぬるま湯を普通の環境で放置した時の温度変化を実測してみた
少し前の投稿で「ラムネをぬるま湯に溶かしてみれば崩壊性を身近に感じられるんじゃない?」という記事があります。
ここでラムネをぬるま湯に溶かすって書いているのは、少しでも口の中の温度に近づけるためです。
そこで今回は「購入した温度計を試しに使ってみた」という報告と「口の中の温度を再現できるのか?」という疑問の解消のために、少しだけ脱線して自由研究してみました。
背景
温度計のご紹介
まずは温度計を購入しましたというご報告です。
購入したのはTANITAのTT-508Nデジタル温度計です。
タニタ(Tanita) 温度計 料理 防水 50~250度 ホワイト TT-508N WH スティック温度計
https://www.amazon.co.jp/%E3%82%BF%E3%83%8B%E3%82%BF-TANITA-%E3%82%AF%E3%83%83%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%E6%B8%A9%E5%BA%A6%E8%A8%88-%E6%96%99%E7%90%86%E7%94%A8%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E6%B8%A9%E5%BA%A6%E8%A8%88-TT-508N-WH/dp/B07CZ61DDS
選んだ理由は次の3点です。
- 防水であること(丸洗いできる)
- 値段がある程度お手頃であること
- 200℃以上でも測定できること(油でも使用できる)
要するに「衛生的で、ある程度安くて、何にでも使えるやつがいい!」という無茶な願望を形にしたのがこちらの温度計です。
価格は税込み1858円。(2024年7月26日閲覧)
他のデジタル温度計が1000円前後のものが多い中で少しお高めですが、丸洗いできるのは魅力ですし、Amazonの評価も4.3と高いです。
測定範囲は-50℃~250℃です。
私はお菓子作りなどもするので「チョコレートの湯銭にも使える!」と思って最終的に購入を決めました。
その他、赤ちゃんのミルク作りや、園芸などにも使えるとパッケージに記載されているので、使用用途はかなり広いと思います。
持っていても腐るものではないと思うので「あると便利じゃないかな」と私は思っています。
日本人の口の中の温度
さて、ラムネを口の中の中の環境と近い温度で溶かすためには、口の中の平均温度を知らなければいけません。
そこで文献を探してみたところこの記事を発見しました。
入來正躬ほか. (1988) “健常日本人の口腔温” (2024年7月26日閲覧)
https://doi.org/10.11227/seikisho1966.25.163
こちらの研究では健常な日本人1022名を対象に口の中の温度を測定しています。
対象者の口の中の温度を10分値測定したところ、36.96±0.31℃(平均値±SD)が健常な日本人の口の中の温度と考えられることが分かりました。
この結果を基に平均値±2SDの範囲を求めると36.34℃~37.58℃になります。
もっと分かりやすく言うと、100人の人を集めて口の中の温度を10分間測ったら約95人が36.34℃~37.58℃の中に入る、ということになりそうです。
このことからラムネを溶かすぬるま湯の温度が36.34℃~37.58℃の間であれば、口の中の温度をある程度再現できると言えそうです。
疑問
口の中の温度を再現するにはラムネを溶かすぬるま湯を36.34℃~37.58℃の間に設定すればよいことが分かりました。
では、身近なものを使った実験でこの温度の範囲内にぬるま湯を保たせることは可能なのでしょうか?
また、可能な場合はどれくらいの時間その範囲の温度を維持できるのでしょうか?
今回購入した温度計も用いて研究していきたいと思います。
方法
ラムネが溶けるかどうかを確認したいとなると、入れ物にぬるま湯を入れて部屋に置いておくという方法が1番お手軽です。
そこで今回は私が持っている3つのマグカップを入れ物として用意しました。
100均で売っている何の変哲もないマグカップです。
今回3つ用意しているのは平均値とばらつき(SD:標準偏差)を求めるためです。
要するにできる限り正確な結果を得るために3つ用意していますが、ある程度の傾向を知るだけなら1つでも十分だと思います。
特に今回の場合はラムネを溶かすという大きい目的を補助するための研究なので、それほど精度にこだわる必要はなく、皆さんが行われる場合は1つでもよいと私は考えています。
ただ、今回はできる限り正確な情報を皆さんにお伝えしたいという考えから、マグカップを3つ用意しています。
…というわけで入れ物にぬるま湯を入れていきましょう。
今回私は3つマグカップを用意していますので、コーヒーサーバーにマグカップ3つ分のぬるま湯を作ってから、それをマグカップに分けていきたいと思います。
その方が最初の水温のばらつきも少なくなりますからね。
沸かした熱湯に水道から出る水を加えて約40℃ほどに調整しました。
この後、3つのマグカップにぬるま湯を分配していくのですが、マグカップに分配する段階でもぬるま湯が冷めます。
私は一度ぬるま湯を作り直すことになったので、コーヒーサーバーでまとめてぬるま湯を作る時は気持ち高めに作った方が良いと思います。
私は最終的にコーヒーサーバーで約42℃ほどのぬるま湯を作りましたが、マグカップに分け終えた後は約39℃ほどまで温度が低下していました。
想像以上に温度が下がるので、余計な手間を省くためにも気を付けてください。
…そんなこんなで私は3つのマグカップにぬるま湯を150 mLずつ分配しました。
150 mLという量はマグカップの大きさに合った量という形で設定しておりますので、変えていただいて大丈夫です。
これを部屋の中に放置して、温度計で定時に時間を測っていき、明らかにぬるま湯の温度が口の中の温度を下回るまで測定しました。
時間については最初に温度を測った時間を0分とし、最初は温度低下の様子を見るために1分、2分、5分時点で測定、その後は5分ごとに温度を測っていきました。
予めお伝えしておくと私は外気温約30度の状況下で、30分間測定を行いました。
結果
結果についてはこちらです。
外気温は、開始時点で30.5℃、終了時点で31.5℃でした。
(外気温はデジタル置時計の温度表示で確認しております)
グラフ中の●は3つのマグカップ中のぬるま湯の温度の平均値、●の上下の誤差バーは標準偏差、点線は近似直線を表しています。
なお、ベージュ色で表示してある範囲が目標の口の中の温度を再現するための36.34℃~37.58℃の範囲です。
考察
得られた●印の分布から近似直線を引くとy=-0.1367x+38.821という直線の式が求められ、R2値は0.981でした。
この近似直線の式とR2値はExcelのグラフの設定からボタンを押すだけで簡単に表示させることができます。
自分で計算する必要はないのでご安心ください。
…で、これらの式や値が何を意味しているかですが、まずは式の方からいきますね。
近似式
y=-0.1367x+38.821のxは時間(分)、yは温度(℃)を表しています。
要するにこのy=-0.1367x+38.821を求めたことで、
時間(x)か温度(y)のどちらか1つを決めてあげればもう1つも計算できるようになっています。
今回の場合は目標にしたい温度(y)が36.34℃~37.58℃と決まっているので、36.34℃になる時の時間(x)と37.58℃になる時の時間(x)を求めてあげれば、部屋の中に置いておくだけで何分間くらい口の中と近い温度になるのか求めることができます。
xの値はy=-0.1367x+38.821を変形して、x=-(y-38.821)/0.1367で求めることができそうです。
実際にyに36.47と37.58を代入してみて、xの値を求めると、
y=36.47の時はx≒17.15、y=37.58の時はx≒8.08になりました。
この2つのxの値の差を求めると約9.07。
かなりざっくり言うと、外気温約30℃の状況で私の今回の条件で実験を行う場合は、口の中と同じような温度にぬるま湯がなっているのは約10分だけということになります。
思っていたより短い…。
口の中の温度と似たような温度でラムネを溶かそうと思うと、
- 溶ける時間が10分で終わるようにする
- もう少しぬるま湯の温度が下がりにくい状況にする(入れ物をマグカップじゃなくて保温カップにする、外気温をもっと上げるなど)
- 温度は溶け方に関係ないということを示す
など、いずれにしても工夫が必要になりそうです。
R2値
さて、ここまでラムネを口の中の温度と似た温度で溶かすには今の条件だと約10分で実験を終えなければいけないことになりそうです。
ただし、ここには
実際に測ったぬるま湯の温度の変化が、近似式であるy=-0.1367x+38.821に近ければ
…という条件が付きます。
何を言っているの…?という感じなので例を出してみたいと思います。
次のグラフは私が適当に作ったグラフで先ほどと同じように近似直線を引いてxとyの式を求めてみました。
今回は引いた近似直線からy=-0.4571x+7.6という近似式が得られました。
でも、今回の近似直線はあまり●に合ってないような気がしませんか…?
このような状況ではxやyを計算で求めても、あまり信用できない値になりそうです。
実際の●と近似直線がどれだけ近いかということを示す必要がありそうですね。
ここで、近似直線が●とどれだけ近いか?
というのを数値で表したものがR2値です。
R2値は0~1の間で表され、1に近いほど近似直線と●が近いよーということを数値で示してくれます。
要するにR2値が1に近いほど近似直線の信用性が高くなります。
一般的に近似直線がある程度信用できるのはR2値0.5以上が1つの基準になっている…と言われています。
ここで、私が適当に作った例のグラフをもう一度見てみましょう。
確かに近似直線は引くことができました。
でも、R2値は約0.09です。要するに信用性がかなり低いです。
これではせっかく近似式からxやyの値を求めても信用性は低そうですよね。
一方で、結果で示したグラフももう一度見てみましょう。
R2値は約0.98です。1に近いですね。
これならある程度近似式が信用できると言えそうです。
実際に●の変化と近似直線も近い感じになっているかと思います。
今回、R2値が1に近いので
近似直線から求められるxやyの値はある程度信用できる!
…と言えそうです。
ここで初めて先ほど求めた「口の中の温度とぬるま湯の温度が近いのは約10分だけ」という考察がある程度の信用性を持っていると言えます!
近似直線を引いた場合は
近似式とR2値(どれほど近似直線が信用できるか)の
2つが必要になってくるんですね。
まとめ
今回の実験で、外気温約30℃の部屋でマグカップに150 mLのぬるま湯を入れてそのまま放置しただけでは、口の中の温度と似ているのは約10分だけということが分かりました。
今回の実験は「ラムネをぬるま湯に溶かして崩壊性を身近に感じよう!」の補助実験です。
なので、考察でも書きましたが、
- ラムネを10分以内に溶かしきる
- ぬるま湯の温度がもう少し維持できるようにする
- 溶かす液体の温度は関係ないことを証明する
といった工夫が必要になってきそうです。
ちなみにこの結果を受けて私は「崩壊性を見るだけなら温度の制御を諦めて、普通の水で実験するのもありじゃないか」とも思っています。
とにかく次回は実際にラムネを作ってみて溶けるかどうか、溶けるとしたらどれくらい時間がかかるのかを確認していきたいと思います。