- コーンスターチが崩壊剤としてはたらくかどうかをより直接的に確かめたい…!
- コーンスターチを使っていないラムネと使ったラムネを作り、ぬるま湯に投入した時のラムネが崩れるまでの時間を計ることで崩壊剤としてのはたらきを評価する
- また、前回とラムネの大きさを変えることで実験結果のばらつきに与える影響を評価する
- コーンスターチありの方がラムネの形が崩れるまでにかかった時間が短かった
- 大きさによるばらつきへの影響は実測値を見ると大きな変化は見られなかった
- コーンスターチは崩壊剤としてのはたらきを持つ可能性がある
- 2.5 mL~5.0 mLの範囲ではラムネの大きさを変更しても大きな影響はなさそう
素朴な研究第3回のまとめ記事です。
今回の第3回では「コーンスターチが薬の形を崩すために必要になることがある崩壊剤としてのはたらきを本当に持つの?」ということをテーマに実験してきました。
本物を錠剤を使って実験する…のはなかなか難しいので、今回の実験では①コーンスターチを使わずに作ったラムネと②使って作ったラムネの2種類を準備して、コーンスターチの崩壊剤としての役割についての疑問を素朴な材料で解消していきたいと思います!
また、「ラムネの大きさを変えることで実験の誤差を小さくできないか」という疑問も一緒に解決していきたいと思います!
今回の記事はまとめ記事ですので、大まかな内容だけで内容が進むかと思います。
詳細が気になった方は【素朴な研究. 3】の背景~考察までの記事から該当する記事をご覧ください。
それではまとめていきたいと思います!
背景
第2回の実験で分かったことと課題
【素朴な研究. 2】の実験ではラムネにつまようじを組み込むことで、ラムネをぬるま湯に投入した際に崩壊したことが分かりやすくなるか…ということを検証しました。
その結果、ラムネが崩壊するとつまようじが水面に浮いてきたため、ラムネの形が崩れたことの評価の指標としてつまようじをラムネに組み込むことは有効な方法になり得るということが分かりました。
ただし実験を3回行うと、それぞれの回ごとにつまようじが浮かび上がってくるまでの時間にばらつきがあったため、目的によってはばらつきを小さくする工夫が必要だな~という課題も残して【素朴な研究. 2】は幕を閉じました。
Fig. 1はつまようじが浮かび上がってくるまでの時間の実測値3回分を●で示したものです。
左の灰色の●が冷水、右の茶色の●がぬるま湯にラムネを投入した時の結果ですが、ラムネを投入する水の温度に関係なく1つ●が飛び出ている(ばらついている)ことが分かりますね。
今後実施する実験の目的によってはこのばらつきが気にならない可能性もありますが、できれば色々な実験で使えるようにするためにばらつきは小さくしておきたいところです。
以上のことから【素朴な研究. 2】で分かったことと課題として、
- ラムネの崩壊の評価につまようじは使える!
- ただし、ばらつきは小さくする工夫が必要かもしれない
ということが挙げられます。
…ちなみに【素朴な研究. 2】のまとめ記事もありますので詳細が気になる方はそちらをご覧ください。
第3回の実験目的
ラムネにつまようじを組み込むことで「改善の余地はありそうだけど、ラムネの形が崩れたかの評価はしやすそう!」ということが分かったので、いよいよ第3回ではコーンスターチのはたらきをより直接的に検証していきたいと思います。
医薬品の世界において有効成分が体内により吸収されやすくするために薬に崩壊剤が使われることがあります。
そしてコーンスターチはこの崩壊剤としてのはたらきを持つということが言われています。
三宅由子ほか. (2011) “口腔内速崩壊錠の製剤設計―崩壊剤のスクリーニング―” p. 2. (2024年9月3日閲覧)
http://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000171996.pdf
では、素朴な材料と前回作った実験系(ラムネにつまようじを組み込んでラムネの形が崩れたことが分かりやすくする系)を使ってより直接的にコーンスターチの崩壊剤としての役割を体験できないだろうか?
第3回ではコーンスターチの崩壊剤としての役割をより直接的にラムネを使って体験することを目的に実験を進めていきます!
また、ついでにラムネの大きさを変えることによってばらつきを小さくできないかも検証していきたいと思います。
方法
コーンスターチの崩壊剤としての役割
「コーンスターチの崩壊剤としての役割をより直接的に体験するって言われても…」
いや、そうですよね。
方法を考えるのが難しいです。
私はここで臨床試験でもよく用いられる試験方法の1つである比較試験を応用してみたいと思います。
比較試験はざっくり言うと、有効成分が入っていない薬を飲んでもらった群(プラセボ)と有効成分が入っている薬を飲んでもらった群の2つの群に分け、その2つの群の差を見よう…という試験です。
本当は先入観をなくすためにランダム化比較試験(RCT)の要領で「これは有効成分(今回はコーンスターチ)が入っているラムネなのか」ということが実験者が分からない状態で実験をした方がいいのですが、1人だとそれも難しいので非ランダム化比較試験(NRCT)の要領で実験を進めていきたいと思います。
話を戻します。
コーンスターチの崩壊剤としての役割を体験するためには「コーンスターチなしのラムネ」と「コーンスターチありのラムネ」の2種類を作って、それぞれをぬるま湯に入れてみたときの結果の差を見るのがよさそうだと私は考えました。
そこでまずは2種類のラムネのレシピ案を考えてみます。
私が考えたラムネのレシピ案はこちらです。
「コーンスターチあり」の方は【素朴な研究. 2】のときのラムネの組成と同じです。
ただし、今回は整形するときにラムネのサイズを大きくしました。
(こちらは後で記載します)
「コーンスターチなし」の方は文字通りコーンスターチを入れていません。
ただし、ただコーンスターチを抜いてしまうだけだとラムネ全体の組成の割合が変わってきてしまうので、粉砂糖をコーンスターチが入っていない分増やしました。
この画像は【素朴な研究. 2】のものですが、どちらのラムネにもこのようにつまようじを組み込んでラムネを作っていきたいと思います。
【素朴な研究. 2】と同じ結果になるならば、つまようじを組み込んだラムネをぬるま湯に投入することで、ラムネの形が崩れるとつまようじが水面に浮かんでくるはずです。
- ラムネを投入してからつまようじが浮かんでくるまでの時間を計測する
- その操作をそれぞれの種類のラムネで3回ずつ繰り返す
- 3回の結果からそれぞれの群の崩壊までにかかった時間の平均と標準偏差を求めて差を確認する
この流れでコーンスターチの崩壊剤としての役割を確認したいと思います!
なお、今回は結果が得られれば見た目だけではなく統計的にも解析したいと思っています。
結果が正規分布になることを仮定して対応のない2標本のt検定で解析します。
今回はp<0.05となった時に「統計的な有意差があった」とします。
この統計解析の辺りは深入りしなければ無視していただいて大丈夫です。
(統計的な有意差より見た目の差が重要視される場合もあるため、また深入りすると本当に深い知識が必要になるため)
あと、ここではぬるま湯の定義を36.4℃~37.6℃にしたいと思います。
ここに関しては自由に決めていただいて構わないのですし、【素朴な研究. 2】で冷水からぬるま湯くらいの水温であればラムネの崩壊時間にあまり影響はないだろうと考えているので、熱湯にしない限りはそれほど気にしなくて大丈夫だと思います。
ただ、一応実験条件はできる限り揃えておいた方が比較はしやすいな…ということで、今回もラムネ投入前の温度を37.6℃にして、つまようじが浮かび上がった後の水温も念のため測定しています。
ぬるま湯の定義を36.4℃~37.6℃にしている理由と【素朴な研究. 2】の水温の影響の結果はこちらをご覧ください。
『【自由研究・補助】温度計と水温の変化について』の記事でも触れていますが、今回の実験のぬるま湯の定義の参考にしているデータはこちらです。
入來正躬ほか. (1988) “健常日本人の口腔温” (2024年9月3日閲覧)
https://doi.org/10.11227/seikisho1966.25.163
ラムネのサイズによる影響
こちらは「ついで」と言ったら悪いですが、本当に「ついで」に確認してみましょう。
比較するのは【素朴な研究. 2】のぬるま湯に投入した方の結果と今回の「コーンスターチあり」の結果です。
前回は1.25 mLの計量スプーンを2つ組み合わせてラムネを作ったので、ラムネの体積は約2.5 mLです。(ラムネ小します)
一方で今回の「コーンスターチあり」のラムネは2.5 mLの計量スプーンを2つ組み合わせているので、全体で約5.0 mLです。(ラムネ大とします)
この同じ組成でサイズ違いのラムネの崩壊にかかるまでの時間を比較することでサイズによる崩壊時間への影響を調べてみたいと思います。
なお、ラムネをぬるま湯に投入してからつまようじが浮かんでくるまでの時間のデータを解析する手順は先ほどのコーンスターチの有無の実験と同じです。
結果
ラムネ作り
まずはラムネ作りから始めます。
最初は【素朴な研究. 2】で実績のあるコーンスターチありのラムネの大きいバージョンを作っていきましょう!
方法で記載したレシピ案の通りにラムネを作っていき、整形のときだけ前回より大きい計量スプーン(1つ2.5 mL、2つ合わせて5.0 mL)を使いました。
こちらは問題なく作ることができました。
では、続いてコーンスターチなしのラムネでも同じように作ってみましょう!
コーンスターチありのラムネ作りのときに入れたコーンスターチを入れずに、粉砂糖の量を10 g増やします。
次にクエン酸やレモン汁、水を加えて混ぜたところ変化が起きました。
明らかに塊になっている…。
スプーンの背でつぶすようにしながら混ぜていましたが、塊をつぶしたそばから新しい塊ができてしまいます。
正直きりがありません…。
本来は水気がなくなるまで混ぜる予定で、コーンスターチありのときもある程度塊がなくなって「水気はあまりなさそう」ということが見た目で判断できていたのですが、今回は難しそうです。
10分弱粘ってみても変化がなかったため諦めて重曹を加えました。
その後も混ぜてみたのですがやはり一向に変化は見られず…。
仕方がないのでこのまま整形に入ります。
今回もコーンスターチありのときと同じ大きさで全体で5.0 mLになるようにラムネを作ります。
粉を2つの計量スプーンで軽く挟み、間につまようじを入れ込んでギュッと圧縮する…。
コーンスターチありのときと同じように整形を行ったつもりでしたがここで問題が。
ラムネが型から外れず、無理に外そうとした結果真っ二つに…。
困りました。
無理に外すとラムネが割れてしまうのでしばらく試行錯誤を続けた結果、計量スプーン1つだけなら慎重にやれば外せることがあると気付きました。
でも、もう1つの計量スプーンが外せない…。
ここでもしばらく試行錯誤を続けた結果、2つ目の計量スプーンを外す際に計量スプーンのふちに沿ってスプーンの先端を入れてやると何とか型から外せることがありそう!…と分かりました。
計量スプーンから外したものがこちらです。
何とか形にはなっているかなと思います。
これと同じように予備も含めて同じものをあと5個作りたいと思っていたのですが、整形作業開始から1時間以上経過しても合計6個のラムネを作ることができなかったので途中で断念。
…まぁ、3回の操作で上手くいけばいいんです。
気を取り直して1日部屋で乾燥させました。
緑のお皿がコーンスターチなし、白のお皿がありです。
というわけでラムネは無事に…とはいきませんでしたが作ることができました。
コーンスターチの崩壊剤としての役割
それでは実際にできたラムネをぬるま湯の中に投入していきましょう!
ぬるま湯の中にラムネを入れてからストップウォッチを押し、つまようじが浮いてきたら止める。
これをそれぞれのラムネで3回ずつ、合計6回行いました。
その結果がFig. 2とFig. 3です。
Fig.2 は3回の計測時間を●で示したもの、Fig. 3は3回の結果から平均値と標準偏差を求めて統計的に有意差があるかを確認したものです。
茶色がコーンスターチなし、緑がありの結果です。
コーンスターチありの方がラムネが崩壊するまでの時間の平均が約50秒短く、統計的にも意味のある差であるということが分かりました。
ラムネのサイズによる影響
続いてラムネのサイズによる影響です。
【素朴な研究. 2】で作ったラムネ小と今回作ったコーンスターチありのラムネ(ラムネ大)のぬるま湯に入れてから崩壊までにかかる時間をまとめました。
結果はFig. 4~6です。
Fig.4 は3回の計測時間を●で示したもの、Fig. 5は3回の結果から平均値と標準偏差を求めて統計的に有意差があるかを確認したもの、Fig. 6はFig. 5で求めた平均値と標準偏差から相対標準偏差を求めたものです。
黄緑色がラムネ小、緑色がラムネ大の結果を表しています。
Fig. 4、Fig. 5からは視覚的にも統計的にも大きな差は確認されませんでしたが、Fig. 6の相対標準偏差は約1.84倍ラムネ大の方が高いという結果でした。
考察
今回の結果から考察したいことは3つです。
- コーンスターチなしのラムネ作製時に塊ができたこと、及び型離れが悪かったことについて
- コーンスターチありの方が崩壊時間が短くなったことについて
- ラムネのサイズによる影響について
順番に見ていきましょう。
ラムネ作製時の問題
今回コーンスターチなしのラムネは混ぜるときに塊が多くでき、型離れも悪く整形に時間がかかりました。
なぜコーンスターチがないと塊ができてしまったのか?
私は粉砂糖の吸湿性の高さとコーンスターチの吸湿防止作用が影響しているのではないかと考えています。
『粉砂糖の違いを比較 純粉糖 コーンスターチ オリゴ糖入り プードルデコールの使い道』(2024年9月4日閲覧)
https://atelier-s-liaison.com/powderedsugar/
100%の粉砂糖は水分を吸ってしまいやすく、しばらくそのまま保存しておくと塊になってしまうことがあるようです。
それを防止するために市販の粉砂糖にはコーンスターチが含まれているものがあるようです。
今回はレモン汁や水といった液体を入れた後にコーンスターチがない場合は塊が多くみられるようになりました。
これはコーンスターチを加えないことにより粉砂糖だけが水分を過剰に吸ってしまい、お互いにくっついて塊になってしまったのでは?…と私は考えています。
水分を過剰に吸ってしまってくっつきやすいということは整形時に型にもくっつきやすくなります。
型離れが悪かったのもコーンスターチがなくなてしまったことによる、粉砂糖の水分の過剰吸収が原因ではないかと思います。
コーンスターチによる崩壊時間の短縮について
今回コーンスターチありでは崩壊時間が視覚的にも統計的にも短くなっていることが分かりました。
これはコーンスターチの「糊化」という特性のためではないかと考えています。
『コーンスターチの特性と新加工・利用技術-農畜産業振興機構』(2024年9月4日閲覧)
https://www.alic.go.jp/joho-d/joho08_200805-01.html
でん粉粒子(コーンスターチはトウモロコシのでん粉)はある一定の温度以上で水分を含むと膨張し崩壊するようです。
この現象を「糊化」といいます。
今回コーンスターチありのラムネをぬるま湯に投入したことにより、ある一定以上の水分がある環境下になりました。
この環境下になったことにより、ラムネにコーンスターチが含まれていた場合はコーンスターチの粒子が膨張し、ラムネの形を崩壊させることに一役買っていたのではないかと思います。
ラムネのサイズの影響について
ラムネのサイズについては、ラムネの体積約2.5 mL~5.0 mLの範囲ではラムネ大の方が相対標準偏差は高くなるという結果でした。
しかし、私はこの相対標準偏差の変化はそれほど重要ではないかなと考えています。
理由としてはFig. 4の●の分布です。
確かにラムネ大の方が●の分布はばらついているものの、●の分布はラムネ小も大も似たような感じになっています。
Fig. 5の平均値からもそれほど大きな差は確認できません。
なので私は視覚的にはほとんど差が見られなかったので、相対標準偏差の結果を今回はそれほど重要視しなくてもいいのではないかと思っています。
要するにラムネの体積約2.5 mL~5.0 mLの範囲でのサイズ変更は崩壊時間にそれほど大きな影響を与えないのではないかということですね。
もちろん相対標準偏差が小さい方がいいのはそうなのですが、つまようじをラムネの崩壊時間の目安にする実験系ではこれくらいの誤差が出るものだと予め認識できたことが大きいです。
今のところ改善策は実験回数を増やすくらいしか思いつかないのですが、何か崩壊時間の目安の改善策があれば嬉しいです。
まとめ
いかがだったでしょうか?
今回の実験からコーンスターチが崩壊剤としての役割を果たす可能性があるということを素朴な材料で体験できたのではないかと思います。
ラムネのサイズの変更ではばらつきの程度の改善は見られませんでしたが、課題として改善策を考えていきたいところです。
次回もラムネの崩壊について【素朴な研究】を深められたら…と思っています。