- 医薬品には錠剤などが崩れやすくなるように崩壊剤が使われることがある
- コーンスターチは崩壊剤としての役割も持つ
- コーンスターチを使って崩壊性を体験できないか?
- コーンスターチを使って作ったラムネをぬるま湯に溶かしてみる
- ラムネが溶けたかどうかを目視では確認できなかったため、崩壊性を直接体験することはできなかった
- この方法で崩壊性を体験するにはラムネが溶けたことが分かる工夫が必要
今回の記事はまとめです。
今まで記載してきた『【素朴な研究. 1】素朴な材料で崩壊剤の研究をしてみる』の背景から考察を1つにまとめた記事です。
今回の実験の大まかな流れを知るだけであれば本記事で十分だと思います!
詳細は他の記事に譲りますので、気になる箇所があった方はそれぞれの該当記事をお読みください。
それでは始めていきます!
背景
医薬品の世界では崩壊剤が用いられることがあります。
崩壊剤は錠剤などが文字通り「崩壊」しやすくなるよう手助けをする添加物で、有効成分の分散を促し、吸収されやすくするために必要となることがあります。
今回、私が崩壊剤には具体的にどのようなものが使われているのかを調べたところ、三宅ほか.(2011)の報告から、コーンスターチも崩壊剤として用いられることがあるとわかりました。
三宅由子ほか. (2011) “口腔内速崩壊錠の製剤設計―崩壊剤のスクリーニング―” p. 2. (2024年8月6日閲覧)
http://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000171996.pdf
コーンスターチは料理やお菓子作りにも用いられ、スーパーマーケットでも買えることから素朴な材料であると言えます。
そこで私はコーンスターチを用いて崩壊剤の役割を身近なものとして体験できないか、と考え今回の研究を行うことにしました。
方法
錠剤によく似ていて、かつ身近にあるものとしてラムネを用いることを考えました。
コーンスターチを使ってラムネを作り、それが口の中の温度を模したぬるま湯に溶けるかどうか、また溶けるまでにかかる時間を確認することで、崩壊剤の役割を身近なもので体験することを目指しました。
コーンスターチを使って作るラムネのレシピ案はTable 1、Table 2の通りです。
ラムネを作製し、健常日本人の口の中の温度を36.3℃~37.6℃と仮定した上で、その温度の範囲に収まるように設定したぬるま湯にラムネを溶かしました。
なお、健常日本人の口の中の温度の仮定は、入來ほか.(1988)の報告で健常日本人の口の中の温度を10分値測定したところ36.96±0.31℃(平均値±SD)であったということを基に、平均値±2SDの範囲と今回はしています。
入來正躬ほか. (1988) “健常日本人の口腔温” (2024年8月6日閲覧)
https://doi.org/10.11227/seikisho1966.25.163
ぬるま湯に投入したラムネが溶けるかどうか、また、溶けた場合溶け切るまでの時間を測定することとしました。
実験は3回行い、溶け切るまでの時間の平均値、標準偏差、相対標準偏差を求めることにしました。
結果
Table 1、Table 2の通りにラムネを作製したところ、ラムネを作ることができました。
作製したラムネを温度を管理したぬるま湯に投入し、溶けるかどうかを確認しました。
しかし、投入直後ラムネは沈んでしまい、ぬるま湯も白濁したため、直接的にラムネが溶けたことを確認することはできませんでした。
ラムネを投入した直後から水面に泡が出現していることを確認できたことから、「泡が水面に現れなくなってから5秒経過する」ことを間接的な指標とし、ラムネが溶け切るまでの時間を測定することにしました。
測定した結果がFig. 1、そこから溶け切るまでの時間の平均値、標準偏差、相対標準偏差を求めた結果がFig. 2です。
なお、泡が水面に現れなくなってから5秒経過した後のラムネの実際の溶け残りの有無を調べた結果、溶け残りは確認できませんでした。
考察
今回のTable 1、Table 2で示した方法でラムネを作製でき、ぬるま湯に投入すると溶けるということが分かったことから、崩壊剤の役割を身近なもので体験できる可能性はあると考えられます。
しかし、溶けたタイミングを目視で直接確認できなかったこと、泡が出てこなくなってから5秒経過した時点を間接的にラムネが溶けたタイミングとしていること、泡が出てこなくなるという指標が非常に不明瞭で主観が大きくなってしまうことから、実質的にラムネが溶けるまでの時間を計測することができたとは考えられません。
今回ラムネが溶けたと判断したまでの時間はラムネを投入してから最長約400秒、最短約200秒であり、その差は約200秒(約3分20秒)と非常に差があったと私は考えています。
そのため、ラムネをぬるま湯に溶かすという方法で崩壊性を確認する場合、ラムネが溶けたことを分かりやすくするための工夫が最低限必要であると考えられます。
ラムネが溶けるまでの時間の評価基準以外に、ラムネ成形時の圧縮のされ方の違いも考えられますが、私はラムネが溶けるまでの評価基準を明瞭なものにすることによる改善の余地が大きいと考えています。
ラムネが溶けたことを分かりやすくする工夫をした上で、今回得られた相対標準偏差である33.9%を下回るかどうかを確認し、ラムネが溶けたという評価基準を明確にした実験方法を確立することが課題であると考えられます。
また、ぬるま湯の温度については3回とも目標の範囲に収まっていたため、今回のラムネが溶けるまでの時間のばらつきには温度はそれほど寄与していないと考えています。
まとめ
いかがだったでしょうか?
「いや、分かりにくい…」と思われるのも当然かと思います。
何はともあれ、このような素朴な材料を使った実験で、しかも明確な結果が得られなくても研究報告は書くことができます。
予想した通りの結果が上手く出ればそれに越したことはないですが、例え上手くいかなくても実際に実験を行い、その結果を受けて自分の考えをまとめる…という過程が大事だと私は考えています。
予想した通りの結果が上手く出ている研究は、小さな研究や失敗した研究の積み重ねであることがほとんどです。
よく課題で出される自由研究のまとめとして「上手くいったことを書かなくてはいけない」という印象が強いのではないか…と私は感じていますが、例え予想通りの結果が出なかったとしても、そこからしっかりと自分の考えを表せている自由研究のまとめは魅力的だと私は考えています。
「世の中のに評価される研究をしたい!」となると話は変わってきますが、基本的に研究において周りの評価は気にする必要はありません。
研究を行う人が結果を基に自由に自分の考えを表現できる…そういう研究であってほしいと私は思っています。
話がかなり脱線しました…。
今回の実験から、次回はもっとラムネが溶けたことを分かりやすく示せるような方法を見つけていきたいな…と思っています。
崩壊剤の役割を素朴な材料で体験できるようにするためには、もう少し時間がかかりそうですが地道に続けていけたらな…と思っています。
以上、まとめでした!